ラヴレス
夜食用の機内食が運ばれてから数刻。
外の景色に飽きたらしい智純は、航空会社の名前が刻まれた毛布にくるまっている。
そこからチェアひとつ分の通路が開いている向こう側では、コーヒー片手に仕事の書類に目を通しているキアラン。
その後ろで、判を押された書類をジンが整理していた。
「よく寝ているな」
「お疲れなんですよ」
既に日本圏ではない。
母国語でそんなことを話しながら、キアランとジンは智純を見やる。
「あちらに着きましたら、簡単な英会話を覚えて頂きましょう」
ジンの言葉に、キアランが少し驚いたような表情を見せた。
「…あぁ、そうか。…話せないのか」
「中学で義務教育は終えられていますから。あとは必死に働かれていたようですし、あの環境で英会話の習得は難しかったかと」
言葉が通じない国。
行きたいと願ったわけでもない場所へ、脅迫されて向かう。
だというのに、智純は気丈だった。
「……」
ジンの言葉に、キアランは神妙に眉を寄せる。
己の決断を悔いるつもりはない。
ただ―――…。
キアランがじ、と眺めていると、小さな毛布の塊が動いた。
思わずぎくりとなる。