ラヴレス








「…といれ」

ボサボサになった髪を手櫛ですきながら智純は立ち上がった。

ぐらぐらとバランス悪く歩くものだから、ジンも立ち上がる。

「大丈夫ですか?」
「…大丈夫です」

寝すぎただけ、と小さく洩らした智純は、ジンの手を借りることもせず後部にあるトイレに消えた。


「…全く、のんきなものだな」

智純がそれなりの苦労をしてきたのは知っている。
それでも気ままな彼女に、キアランは原因不明の不快を感じていた。

自由でありながら自由ではないキアランと、自由ではないが自由な智純。

キアランが些細な違和感を感じ、智純を羨むのは仕方がないことだった。

「アナベル・トシュナウザー」を率いる当主とはいえ、まだ年若い。

キアランのように柵(しがらみ)を持たない智純が随所随所で見せる猫のような気まぐれが、キアランを無意識に苛立たせていた。










< 153 / 255 >

この作品をシェア

pagetop