ラヴレス
それから何度となくトイレを往復しはじめた智純に、キアランもジンも不思議そうに眉を顰めた。
だからと言って、なにやら言い出しにくい内容ではあるし、トイレに立っては戻り、立っては戻りを繰り返す小さな身体を気付かれないように観察するしかできない。
しかし何度目か解らないトイレに立った智純を、キアランが呼び止めた。
気を遣って、トイレ用の扉がある通路へと彼女を押し込んで。
「…なんだ、その顔色は」
三十センチは下にある智純の顔を覗き込んだキアランは絶句した。
不機嫌そうに細めながらも、どこか胡乱とした目。
唇からは水分が抜けてカラカラだし、空調が効いて少し暑いくらいの機内で、顔色は真っ青だった。
(まさか体調を崩して―――…)
思わず細腕を掴み、問い詰めようとするとその身体が震えていることに気付く。
気まずいと言わんばかりに視線を外した智純の顔を追いかけ、キアランは眉をしかめた。
奥歯がガチガチと音を立てている―――まさか。
「…飛行機恐怖症?」
ぽつり、と洩らしたキアランに、智純は絶望的だ、と言わんばかりに白眼を向いた。