ラヴレス
「まさかずっと我慢していたのか。バカか」
思わず声を上げてしまった。
キアランの剣幕に、ジンがひょいと顔を出す。
そんなキアランを他所に、智純は腕を掴まれたままぶらぶらと身体を揺らした。
更になにか言おうとキアランが口を開いた時、きゅ、と閉じられていた智純の口が動いた。
「…うっさいなあ」
簡潔な一言だった。
心底から煩わしいと言いたげに、キアランに掴まれた腕一本で身体を支えながらよく磨かれた壁に凭れる。
「うるさいとはなんだ!こっちは心配して…」
あまりの言い種に、キアランは尚も声を荒げる。
その声に、智純は更に眉を寄せた。
「あんたに言ったってどうすることもできないじゃん。ほっといてよ」
あまりの言い種に、ぐら、と揺れる智純の身体を支える手が緩む。
(なんっって可愛げのない女なんだ…!)
キアランが今まで育ててきた「女性像」からは駆け離れすぎている。
苦しいなら苦しいと、はじめから言えばいいものを。
捨て猫を憐れに思って、手を差し出したはいいものの、威嚇されて爪で引っ掛かれたような気分になった。