ラヴレス
「…チフミ様は解っていらっしゃるのですよ。弱音を吐いたところでどうなるわけでもない。なにより初めて飛行機に乗ったのです。離陸してから降ろせと喚いたところで降りれるわけがない。なにより、叔父上様に会う為にイギリスに行くと決めたのは最終的には自分自身ですから」
一番戸惑って苦しんだのはチフミ様ですよ。
ジンの穏やかな言葉に、キアランは苦虫を噛んだような顔を浮かべた。
それは解っている。
解っているのだが―――。
「…少しは周りの者を頼っても罰は当たらないだろう」
キアランの独白に近いそれに、ジンはもう一番苦笑した。
お優しすぎる主人は、たまに無神経である。
「…頼ることに慣れていないのでしょう。貴方も見てきた筈ですよ。彼女はいつも、頼られる側で生きてきたのです」
その頑なな自立性は、キアランにも言えることだ。
だからこそ一概には責めきれない。
「アナベルト」を引き継いだ自分には敬愛する叔父上が居たし、優秀な秘書が居たから、なんとか頼り頼られながらの均等を取ってきた。
けれど、智純は違う。
こども達に頼られ、あの老夫婦にすら甘えきらなかったのではなかろうか。