ラヴレス








「…そんな人間が、手放しで貴方を信用するにはまだまだ時間がかかるでしょう。なにせ貴方は、彼女の大切なものを引き合いにして、彼女をイギリスへと導きましたからね」

こればかりはジンも心が痛い。
キアランが優しい男だと解っているからこそ、口に出すのも憚られる。

しかし智純にしてみれば、それが「全て」なのだ。

なによりまだ彼女にひた隠しにしている事もある。

キアランはそこを充分に踏まえて、彼女に接しなくてはならなかった。

諌められたキアランは、こちらに背を向けて眠りこけている智純に視線を向ける。

ホテルでのやりとりを思い出し、酷く頭が重かった。

悔し涙を流した智純の顔が、ちかちかとフラッシュのように浮かんでは消えてゆく。



「―――…」

しかし、キアランにも譲れないことがある。

なによりも大切な叔父に、人生を謳歌できなかった大好きな叔父に、少しなりとも幸せを味わって欲しかった。

それだけが、キアランが望む唯一なのだ。

それ以外は望まないと、堅く心に誓った。


なにを犠牲にしようと、必ず。









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