ラヴレス
金髪の運転手と助手席に座るエスピーが、智純の知らない言葉で話をしている。
智純がなにを話したところで、彼らには伝わらない。
車を降りてからだって同じだろう。
キアランやジンは智純の前では日本語を話してくれるが、普段は英語だ。
母親の恋人であった「天使」に関しては問題ないのだろう。
しかし、「彼」の病状次第では少しばかり長い滞在になる可能性もある。
(…言葉も通じないで、どう生活していけと)
恐らく、実際はその辺りの心配も要らないのだろう。
手抜かりのないジンのことだ。
キアランの大切な叔父上の大切な人の娘を迎えるにあたり、粗野な待遇はしまい。
(―――せめて、あのふたりと同じ車だったなら良かったんだけど)
あの空港での騒がれ様では無理な話だろう。
どうせ目的地は同じなのだから、同じ車に同行する必要もない。
(…所詮私は、「天使」の所望で呼びつけられただけの小娘だ)
日本ではキアランを厄介者扱いしていたが、この国ではどうなのだろう。
とっくの昔に死んだ恋人の娘に会いたいと、死に際の願いを叶えるために呼んだに過ぎない。