ラヴレス
気付いたら周りが森だらけになっていた。
深い深緑が目を凝らす先々にまで広がり、道すがらには木製のベンチや彫刻、街頭が並んでいる。
穏やかな田畑地帯とは雰囲気ががらりと変わった。
木々が少ない場所から向こう側を見れば、美しい芝生や葦が生い茂る池が垣間見えた。
小鳥やリスが生息しているような場所。
かつて見たこともない風景に、智純は考え事をやめて、窓の外を凝視した。
そしてふと、車の進行方向へと視線を動かし、唖然となる。
「―――…なんだあれ」
深緑の海向こう。
生い茂る木々に埋もれるように、その乳白色の建物は聳えていた。
細い三角柱のくすんだブルー。そこから伸びる柱のような外壁。
柊の皮のような色の壁は面積が広く、ここからだと豆粒のような装飾に見える無数の窓――なんだあれは。
それはまごうことなき、智純が知るシンデレラの「お城」であった。
「…帰りたい」
智純の呟きなど誰に届くこともなく、広大な森に消える。
そして智純を乗せたかぼちゃ馬車ならぬ防弾ガラスの自動車は、スピードを緩めることなくその「城」へと向かって走っていた―――。