ラヴレス
美しい装飾の成された大門を抜けると、モダンな作りの庭が視界に飛び込んできた。
今まで走ってきた路からの景色とは違う、きちんと人の手が加えられたイングリッシュガーデン。
それも明らかにプロが手掛けている繊細な枝切り、計算され尽くした造形美。
高々と枝を伸ばす欅の位置ですら、緻密な計画のもとに定められているに違いない。
そんな庭に走る石畳の通路を、二台続いた車がゆっくりと進んでゆく。
目の前には、築何百年という西洋建築がどっしりと居を構えていた。
造形的にはノイッシュバイン城に近いものがあるが、きちんと英国様式を取り入れた伝統ある建物なのだろう。
ところどころに修繕の跡は見られるが、この老体をここまで保持できるなど並大抵のことではない。
もしかしたら文化財かなにかに指定されている可能性もある。
とは言っても、イギリスではこのような旧弊な建物、珍しくないのかもしれないが。
(これが、英国一の有力貴族、アナベルト・シュナウザーの邸…)
その深い香り漂うような壁面や窓枠、扉から、智純はキアランが抱える酷く重いなにかを感じ取れるような気がした。