ラヴレス
「…チフミ様」
車が停まると同時、運転手がドアを開ける前に外に飛び出した智純に、ジンが声を掛けた。
「長い道のりをお一人で過ごさせてしまい申し訳ありません」
そう言って深々と頭を下げるジンに、秘書というより執事だな、と智純はぼんやりと考えた。
キアランはコートを羽織ったまま、前方に停められた車の横で智純を待っている。
いざ地面に立つと、この土地の広大さがまざまざと智純を貫いた。
大門までの道のりは到底歩く気が起きないほど長いし、その更に先に広がる森――先程まで見続けていた景色の――まで、全てがアナベルト・シュナウザーの持ち物であることが分かる。
更に邸の後ろにも森が広がっており、この庭とはまた違う様式で美しい植物達が配されている様子を垣間見ることができる。
所有地が東京ドーム何倍…しかもそれらの維持費を考えると――貧乏人が考えられるわけもなく、智純は考えるのをやめた。