ラヴレス
もうすぐ春を迎えるとは言っても、まだ年も明けて一月経たない。
燦々と注ぐ太陽は暖かかっが、それでも些か肌寒かった。
背後に広がる住宅街はしんと静まっていて、スズメだろうか――小さな小鳥の囀ずりはするし、眼下から届く町の喧騒は穏やかだ。
彼―――「アルベルト・シュナウザー家当主、キアラン」は、深く息を吐くと、目深に被っていたキャップを外した。
ぱさりと揺れたシルバーブロンドが陽光を反射して美しい宝石のようだ、と、彼を見ていた詩人が居たならばそう表現したことだろう。
それほど彼の髪は艶やかで美しく、一種、潔癖にも見えるその姿は、ありふれた日本の住宅地ではかなり目立つ。
―――だからか。
「てんし!」
子供にそう叫ばれた。
誰も居ないと思っていたのだが、まさか後ろからそう指摘されるとは思わなかった。
「…?」
日本語は理解できるとは言え、てんし…天使のことだろうか。
甲高い声――恐らく女の子――の声がしたほうへ、キアランはゆっくりと顔を向けた。