ラヴレス
ちらちらと広大な庭、目の前に迫る秀逸な人類の遺産を見やる智純の様子に、キアランが美しいカーブを描く片眉を上げた。
「…どうかしたか」
声を掛けられ、智純は庭から目を離さぬまま小さく首を振った。
「…凄い場所だ」
そしてぽつりと洩らす。
心底から感動している声だ。
まるでなにかに取りつかれたように、様々な場所に視線を移しては頬を紅潮している。
「…あぁ、そうだな。アナベルトの財産だ」
そんな小さな頭を見やり、キアランは智純へと冷ややかな視線を投げ掛けていた。
「…取り入ろうなんて莫迦な考えは捨てたほうがいい。この土地は、決して君のものになりはしない」
あからさまな物言いだった。
キアランにとって女性とは所詮そんな生物である。
友人として邸に招待すれば、まるでアナベルトの財産に取りつかれたかのように浅ましい「女」になる。
アナベルト・シュナウザーを背負うキアランにとって、智純のそれは最も嫌悪する、侮蔑に値する反応だった。