ラヴレス
「君のように品位の欠片もない友人なんて必要ないさ」
触れれば切れそうなまでに整った銀色の美貌が意地悪い笑みを形取る。
確かに顔にだけなら惚れてもいい、と智純が思うほど、キアランは美しかった。
きめ細かに乱反射する銀糸。
それが掛かる向こう側で、す、と伸びた目尻は嫌味ではなく釣り上がり、そこを縁取る睫毛さえ、雨の滴を装飾に湛えた繊細な蜘蛛の糸を思わせるほど。
日本人にはまず居ない、淀みなく通った鼻筋はほんの少しだけ高かったが、そこが彼らしい顔のスパイスになっている。
黄金比の塊である彫刻のように、キアランは美しかった。
それこそ、この厳粛で壮大な邸に、庭に、土地に立ち、違和感がないほど。
(まあ性格に難あり。見た目だけなら中世映画…アホか)
そんなことを思いながら、智純はゆっくりと空を見上げた。
曇天の空は雲の流れも早く、いやに気分が落ち着かない。
(母さん、こんなところまで、来てしまったよ)
なんの因果か。
平凡な母が恋をした相手に、会いに。
海を越え山脈を越え、こども達の声がしない場所へ。