ラヴレス
アナベルト·シュナウザー邸に着いて一時間。
そう、既に一時間が経過している。
着いて早々に会えるものだと思っていた「天使」にはまだ面会出来ていない。
数日前から高熱に魘されて目が覚めないのだと言う。
(容体が急変したのは、嘘じゃなかった……)
智純は与えられた豪奢な一室で深々と溜め息を吐く。
気負っていた分、空振りをくらった気分だ。
キアランに待て、を言い渡され、庭を散策する自由もない。
仕方がないので、与えられた部屋を物色することにした。
「…うげ」
窓際に置かれた年代物のテーブルから立ち上がり背伸び代わりに顔を上げると、瀟洒なシャンデリアが天井を飾っていた。
派手過ぎない柔らかなデザインは、現代デザインより凝っていてモダン。
それを背景にした天井も落ち着いたグリーンとゴールドの配色でいかにも英国らしいシンプルで機能的なもの。
もはや何畳ある、と見当を付けるほど億劫になる広い部屋に点在する家具や調度品も、歴史的価値から見ればこんな場所に置いておくより美術館に寄付しろと言いたくなるものばかり。
(ぶっ壊したらやっぱり弁償?)
なんて恐ろしい部屋だ。