ラヴレス





とりあえず部屋のものには一切触らないと決めて、智純は日本から持ってきたトランクを開けた。

必要最低限の着替えと、細々したもの。

その雑多のなかから、小さなアルバムを取り出す。
小さなそれは薄汚れていて、表紙に描かれたキャラクターの顔などもう判別がつかない。

乱暴に扱えば、今にも崩れてしまいそうなほど古い。

薄いアルバムを何冊も何冊も紐で綴ってあるそれの厚みは相当ある。

写真屋で貰えるありふれた小さなアルバムを開けば、美しい母が豪快な笑顔を浮かべた写真がところ狭しとならんでいた。

日本を経つ前、仏前に納めていた「遺品」というより「思い出」に近いそれ。


(…母さん、)

生前の母が映る写真。
幼少時代、「こころの家」で過ごした母、陽向の写真。

幼い母、中学校入学式の母、そして、智純を産んだ母。

多くはない写真に智純の父親らしき人物は写っていない。




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