ラヴレス









こんなもの、持ってくる必要はなかった。

「天使」がもし、まだ、本当に陽向を追っているのなら。

(この写真を見て、互いに笑って涙して、ただ、それが出来るなら、それはそれで…良いんだ)

本当は確かめたいだけに過ぎない。

母を本当に愛してくれていたのか。

身体を患い、母のことを悔やみ、今まで絶望してきた彼に。


(証明して欲しいんだ…)

死んだ人間に届くわけもないのに。

彼は確かに、母を愛していたのだと。

「裏切り」ではなく、純粋な「すれ違い」であったのだと―――。





「バカか、」


ぽつり。

考えて、智純は部屋に籠っているのが嫌になった。

「天使」に会いに来たのに会えないし、茶と菓子だけ出されて一時間放置。

ふざけている。

キアランなんぞの言い付けを守ることに辟易していた智純は、迷いなく与えられた部屋から飛び出したのだった。







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