ラヴレス
廊下に出ると、美しい彫刻の柱が等間隔で奥まで広がっている。
そしてやはりそれに合わせるように、簡素なライト――これは後付けだろう――が、昼とはいえ薄暗い回廊を支障がない程度には照らしていた。
(暗い…)
完全に陽が落ちれば、きっとかなりの薄闇になってしまうだろう。
ライトは蝋燭程度の明かりしかないし、中世からの建物に蝋燭立てはあっても煌々と照らし出す現代ライトが入り込む場所はない。
下手すれば迷いそうな場所だが、迷ったら迷ったである。
外に出れば誰かしらと会うと思っていたが、屋敷は無人かというほど静まり返っていた。
(うげ、向こう側が見えない)
天井まで届く美しい格子窓の向こう側には、霞む彼方まで広がる庭という庭――果たして、煙が膨らむように盛り上がった深緑の森や、葦が生い茂る湿地帯がある草原を、果たしてひとくくりに庭と呼んでいいものか解らないが。
眩むような重い雲の動きが、太陽に透けてうっすらと広大な土地に影を落としている。
ロンドンの賑やかさとは違う、静寂で旧弊、けれど穏やかでどこか寂しげな、場所。
(…静かだ)
邸内だけではなく、土地という土地が、静か。