ラヴレス
顔は見えないが、ふわりと風に靡くような繊細なレースに縁取られた身体の線は細やかで柔らかく、美しい。
キアランの腕に絡む髪も、キアランの銀髪と合間うような美しい金髪。
その傍らで、キアランの秘書であるジンが紅茶を淹れている。
人前でハグするその神経が智純には理解できない。
固く抱き合いながら、互いの耳元で囁きあっているふたりは、どこからどう見ても恋人同士だ。
(…うげえ)
あのキアランの緩みきった顔。
ジンが英語でなにやら二人に声を掛ける。
それに二人は談笑しながら答え、和やかなムードを醸し出していた。
智純には理解出来ない言葉で、三人は穏やかに笑いあっている。
いい気なもんだ、と智純が踵を返そうとした瞬間。
「…智純」
呼び止められた。
しかもはっきり発音されたところを見ると、キアランに気付かれた。
さいあく。
「…なに」
居たたまれなさを感じて立ち去ろうとしたのによもや呼び止められるとは。
―――あの「輪」の中には、入りたくなかったのに。
不愉快な顔を隠しもせず、智純は階段下を振り返った。