ラヴレス
その辺りにひくりと反応しながらも、智純は紅茶を口に運びながら彼女の言葉を反芻した。
(アラン…、アランて言うのか)
そういえば、「天使」のことなど何一つ知らないのだと気付く。
名前すら今知ったなんて笑える。
母はあの優しくはっきりとした声で呼んだのだろう、彼の名を、「アラン」と。
「…まさか、名前を知らなかったのか?」
急に俯いたのが悪かったらしい。
こちらの機微に気付いたキアランが、信じられない、というような顔で智純を見ている。
いちいち癪に障る。
「…あんただってずっと「チフミ」で探してたんでしょうよ」
ジンとじいさん達が気付かなければ、一生お探しのチフミには辿り着けなかっただろう。
そっちの方が信じらんない、と馬鹿にするような視線を向け、智純は立ち上がった。
「どこに行く」
反論されたキアランは、不愉快だと言わんばかりに智純を睨み付けている。
その高圧的な態度が智純を、そして自分自身を苛立たせてしまっているとは気付かないのだ。
ソフィアは暗雲が立ち込め始めた空間に、どうすることもできないまま、ただ困惑していた。