ラヴレス
「…どこだっていいじゃん」
キアランとソフィア。
双方の視線を受け、智純はうんざりしたように手を振った。
関わるな、と言いたげな態度である。
しかしそのぞんざいな態度に、とうとうキアランは立ち上がった。
「此処は僕の邸だ。勝手に出歩かれては困る」
目線が上に上がったにも関わらず、智純は見下すような目を止めない。
そんな眼を向けられたのは初めてで、尚更キアランのプライドを逆撫でした。
「君は言わば、招かれざる客なんだ。君のような一般女性、叔父上が所望しなければこの邸の草一本踏めやしなかったんだぞ」
言うに事欠いて、と端からふたりを見守っていたジンは青ざめた。
冷静な声だったが、口にした内容は明らかに主人らしくないもの。
偏見と侮蔑。
「彼女」が最も嫌うような、言葉を。
―――ダンッ。
「きゃあっ」
案の定、智純は勢い良くキアランのネクタイを掴み、その身体を引き寄せるとアンティークのテーブルに叩きつけた。
余りのことに、ソフィアが悲鳴を上げる。