ラヴレス
「…お国に帰ったせいか、随分と態度がでかくなったみたいだけど、ねぇ、私の気のせいかな」
ギリギリとキアランの頭をテーブルに押さえつけながら、智純はひきつるように笑った。
ただでさえ張り詰めていた精神が、嫌な震え方をしている。
悔しかった。
何故、こんな男にそんなことを言われなきゃならないのか。
腹が立って腹が立って、吐き出さなきゃ泣いてしまう。
「あんた、私がどうして此処に居るか、忘れたの…?」
酷く優しい声だった。
怒りの余り、がちりと奥歯が震えている。
「智純」が「此処」に居る理由。
最終的に決断したのは智純だ。
それに異論はない。
けれど、そうせざるをえない「選択肢」を掲げたのは、キアランだ。
智純の大切な「家」を天秤に掛けて、無理矢理承諾させたのは間違いなく、キアランなのである。
「…あんたがここのルールなら、私は部屋から一歩も出ない。…これで満足だろ、クソ貴族が」
掴んでいたキアランの頭を離し、智純はソフィアにもジンにも視線をやることなくその場を後にした。
そうでなくては、泣いてしまいそうだったから。