ラヴレス









「…発熱しているんだね。お母さんは?」

こんな小さな子を――しかも体調が優れないというのに――をひとりにするとは何事だろう。

祖国では考えられない。

日本は平和な国とはいえ、拐かしだって存在すると聞く。



「おかあさん…?はいないけど、じじとばばと、ちい姉なら、いるよ」

キアランの心配を他所に、ふわふわと熱に浮かされながら、少女はそれこそ天使のように笑って見せた。

しかし少女の言葉に引っかかるところを感じて、キアランは眉を顰める。

ベンチから立ち上がると、キャップは被らず、ゆっくりと少女に近付いた。

キアランの長身に驚いた少女がやはり身を固くするが、すかさずキアランは口角を上げる。

端正で整った、やはり「天使的風貌」の青年から柔らかな笑みを向けられた少女は、警戒することも忘れて「やっぱりてんしだ」と呟いた。

キアランはその長身を屈めて少女の前にしゃがみこみ、じっくりと彼女の顔を観察した。

白い鼻にはぷつぷつと薄いソバカスが浮いているが、柔らかそうに膨らんだほっぺたが子供らしい丸みを帯びて可愛らしい。

少女も、キアランの深い碧眼を興味深そうに覗き込んだ。







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