ラヴレス
この大きく厳粛で閉鎖的な英式建築のなかで、まるで自分ひとりが場違いな調度品のような、そんな感覚に陥りながら。
『君は言わば、招かれざる客なんだ』
キアランの言葉が脳裏に甦る。
その通りなのだろう。
キアランが脅迫という手段を取ってまで智純を巻き込んだのは、一重に大好きな叔父上の為なのだ。
下手にパパラッチに漏れては、「アナベルト・シュナウザー」の名に傷が付く。
それを承知で、智純という見ず知らずの女を邸に招くほどに大事なのだ、「天使」が。
―――コンコン。
ふかふかのブランケットに顔を埋めて考え耽っていると、扉から控え目なノック音が聞こえてきた。
扉との距離が遠いせいか、幻聴のように響く。
まさかキアラン、と智純が身体を起こすと。
「…チフミさん、私です」
流暢な、それでもアクセントが英語訛りの声が聞こえた。
ジンじゃない、女性の声。
この邸宅で自分を訪ねてくる女性――思い当たり、智純は慌てて扉を開けた。