ラヴレス








(一言も、喋らない……)

隣に座るソフィアを見やると、フォークとナイフを手に一口大に切った魚の香草焼きを淑やかに口に運んでいる。

隣に居たい、と言っただけあって、何度かこそこそ話をしてきたり、目配せして微笑み合ったりはするが、結局はそれだけで、すぐにお喋りは止めて料理に没頭する。
お喋りと言えるかどうかの会話ですらないが。

それはキアランも同じで。
彼は更に酷い。
全く、口を開かない。

多少の塩気は足りないにしろ(英国人の味覚)、この美味過ぎる料理を作ってくれたシェフが、向かい側の奥に立ち、じっと見ているにも関わらず。

美味しい、くらい言えよ、と、普段作って食べさせる側の人間の智純は考えてしまうのだ。

(これが貴族の晩餐ってやつ?)

格式高く、閉鎖的で旧弊。
世界で実績を上げているグローバル貴族とは思えない。

繊細で美しく、細部まで職人の腕が行き届いたこの食事の間が、尚更空気を重くさせているようだ。

時間はまだ夕刻だが、窓の外は曇っていて薄暗く、やはりこの重苦しい場を演出している。


(…味も解りゃしない)

うんざりとしながらも、智純は新しく運ばれた料理に舌鼓を打ったのだった。






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