ラヴレス







「古くて大きいけど、ちゃんと細部まで手入れが行き届いてる。家の負担にならないように、しっかり考えて修復作業が繰り返されてんだね」

日本で一番長く就いていた職業の左官も、建築業に通じるものがある。
なによりあの親方にしごかれ続けたお陰か、智純は「家」を眺めるのが好きだった。

そこは、「家族」を守る大切な場所だ。
住んでいる人間性が、月日が経つごとに滲み出てくる。


「良い家で育ててもらって良かったじゃん」

智純がにいと笑う。

キアランは呆気に取られていた。

この「家」を褒める人間は皆無じゃなかったが、智純のように年若い、しかも女性がそんなことを口にしたのは初めてのように思う。

褒めたとしても、純粋に「家」を褒めているわけではなく、それを有するだけの財力と地位を羨望するような。

けれど智純は、純粋にこの「家」を褒めているのだ。





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