ラヴレス
「…医者の話によると、叔父上の容態は徐々に良くなってきているらしい。近いうちに、目覚めて話が出来るようになるそうだ」
パチリ。
薪が弾けた音とキアランの声を耳に、智純は小さく頷いた。
「ずっと寝たきりで、精神的にも参っている。くれぐれも、責め立てるような態度はやめてくれ。…君が病人に対して、そんな真似はしないと解ってはいるんだが」
言いにくそうに歪めた唇は、それでも絵画のように美しいまま苦言を吐き出す。
寄せられた両眉も、智純を直視できず逸らされた視線も。
(…こいつ、本当に「叔父上」が大事なんだ)
両親でもあるまいに。
キアランが彼の為に脅迫すらした理由はなんなのだろう。
彼は「叔父上」の話ばかりで、両親や自分のことなど話しもしない。
そこには他人が踏み込んではならないなにかがあるのか。
気にならないわけではなかったが、智純には尋ねる勇気も無遠慮さも持ち合わせてなかった。
「…まあその時によるけど」
釈然としない気持ちを仕返しするように、智純はキアランの懇願に素直には頷かなかった。
しかしそれが冗談めいたものだと解っているらしいキアランは、智純に小さく笑みを返す。