ラヴレス
キアランが先程歩いてきた坂の上から、自転車が猛スピードでこちらに向かってきていた。
小さな公園内に植えられた銀杏と桜の幹の合間から、その自転車に乗っているのが女性だと判る。
キアランが訝しげな表情で、ぐんぐん近づいてくる自転車を見つめていると。
「ちい姉!」
目の前の少女がそう叫んだ。
嬉しそうに笑って、車道に飛び出そうとする身体をキアランは抱き上げる。
勿論、自転車に轢かれない為だ。
キアランの腕のなかで、少女は「たかーい」と暢気に喜んだ。
ガシャンッ。
「チイネェ」とやらは、ボロボロの車体を乗り捨てるように、その自転車から乱暴な動作で飛び降りてきた。
その乱暴な扱いに、育ちのいいキアランは片眉を上げて顔をしかめる。
よほど急いできたらしい。
ぜえぜえと肩を弾ませる「チイネェ」は、キアランが思っていたよりも大人の女性で、自分と同年代のように見えるが、どこかまだ幼さが残る。
だぼついた作業着と、頭には「安全第一」と書かれたヘルメット。
こんな姿をしている女性を今まで見たことがなかったキアランは、目を丸くした。
「みさと!」
そして、いきなり叫んだ。