ラヴレス
しかしすぐさま厳しい表情を浮かべたかと思えば、キアランは手にしたカップをソーサーに戻し、改めて智純を見た。
智純は、そんなキアランの表情を鏡で映したような顔を浮かべ、じ、と彼を見返している。
この手の顔をする時、こいつはろくなことを喋らない、と智純はこの短い期間で知っていた。
「…それから、まだ君に話していないことがある」
パキリ、空気が変わった空間を破るように、燃え尽きた細い薪が折れる。
「まだ決定したわけではないから、伝えるかどうか、ずっと迷っていたんだが。…叔父上、僕、ジン以外は、まだ誰も知らない事なんだ」
嫌な予感はするものの、智純はキアランの神妙な物言いにたじろぐことなく、唇を引き結んだ。
それに促されるように、膝に置いた両手をぎゅと握り締め、キアランは口を開く。
俯いた銀色の睫毛が、青い双眸に靄を掛けていた。
「実は―――…」
バタンッ。
その時だった。
「…キアラン!」
キアランの声に被さるように、ソフィアが悲鳴染みた声を上げて部屋に駆け込んでくる。
「「フィー?」」
智純とキアランが、異口同音で彼女の名を呼んだ。