ラヴレス
『アラン叔父様が、目を覚まされたの』
駆け込んできたソフィの言葉に、す、と全身から力が抜けるのを感じた。
「…叔父上が!?」
キアランがソフィの身体を支えながら驚愕の声を上げる。
「今、お医者様が付いてくださってるの。容態は安定しているようですが、またいつ眠りに落ちるか解らないって……」
ソフィは困惑と歓喜で頬を赤く染め、興奮混じりにキアランに縋りつく。
私はただソファに座ったまま、ふたりのやり取りを眺めるしかできない。
緊張、しているのかなんなのか、心臓がドッドッと地響きのように鳴り渡り、思わず喘ぐ。
(「天使」が、目を覚ました…)
母が愛した人。
母を裏切ってしまった人。
母を、幸せにできなかった人。
「…知純、君もついてこい」
キアランが私を振り向き、覚悟を推し量るようにそう言った。
ソフィはにこやかな笑みを少し引っ込め、窺うような表情を見せる。
(…私、そんな酷い顔してるかな)
自覚はなかった。
けれどソファから立ち上がり、キアランの言葉に頷くことすらできなかった自分に気付く。
私は、「彼」に何を想い、何を伝えたいのだろう。