ラヴレス
「…てんし、」
知純はキアランを一瞥してから、未だ自分に縋りついているアランに声を掛けた。
アランはその声にぴくりと反応し、乱れた銀髪をさらさらと揺らす。
乱れていた思考は徐々に冷静さを取り戻し、――いや、はじめから解っていたのかもしれない。
目の前の「知純」が、「陽向」ではないことを。
それを承知で、それでも涙せずには居られなかったのだ。
「知純」は、確かに「陽向」の娘なのだから―――。
「…、あ」
キアランと同じ紺碧の、少し灰がかった瞳が、ゆっくりと知純を認めた。
ゆらゆら、溜まったままの涙が、また飽和して流れてしまう。
アランは、何からも目を背けることなく、じ、と初めて会う「娘」を、見ていた。
栄養を点滴で摂っていたひび割れた唇が、ゆっくりと動く。
躊躇いがちに、けれど、どこまでも顕に。
「…ちぃ、ちゃん」
それは、母が付けてくれた、知純の幼少期の名前だ。
深い海のような、澄んだ夜空のような、深く慈しみのある眼が。
(―――あぁ、…)
「…ずっと、会いたかった」
母さん、こんなところに居たの。