ラヴレス
「…今、何時?」
着替えも億劫だったのか、知純は昨日の服のまま、ゆっくりとブランケットから抜け出した。
キアランは昨日よりはラフな姿で、白いシャツに黒のスラックス。
シンプルな服装ながら、バランスが嫌味なくらい良いためよく似合っている。
「六時半だ。朝食にはまだ時間があるから、目が覚めたなら庭でも散策してくればいい」
見れば、外の光が射し込む高く長い窓の向こう側では、冷やされた大気が朝日を浴びて靄がかっていた。
その靄が鮮やかな緑を濡らし、昨夜涙を流した瞳に柔らかく沁みる。
夜のうちに浄化された空気が朝方に芽吹き、きっと気持ち良いだろう。
「…いいの?」
勝手に出歩くな、と昨日は言っていたくせに、急に庭の散策を勧めてくるなんて、と知純は少し疑うようにキアランを見た。
その視線に居たたまれなさを感じたらしい銀髪が、ゆらりと知純から視線を外す。
「…別に構わない。あまり遠くには行くなよ」
反らされた顔にはどんな表情が貼り付いていたのだろう。
知純はにやりと笑みを浮かべ、そんなキアランを見返した。