ラヴレス





*




かさり。

朝露に濡れる草を踏めば、耳に心地よい音がした。

深い朝靄が掛かる向こうでは、その奥の想像を掻き立てる鮮やかな深緑の森が広がっている。
その入口からこちらへ広がっているイングリッシュガーデンは、手抜きのしようがないほど美しく整えられていた。

広々とした庭は、既に「庭」というより「敷地」だ。
背の低い芝生が広がり、車の中からも見えた葦に囲まれた庭が見える。

植えられた多種に渡る花々は、まだ硬く蕾を守っている。
唯一繁るように誇る小さな白い花を咲かせた植物が、朝露に柔らかく包み込まれていた。

少し歩き、テラスの前に出ると薔薇の群像を見つけた。
季節になれば一斉に咲き乱れ、美しくいだろう。

テラスから繋がる室内には灯りが点いていて、数人の使用人が動き回っているのが見える。
どうやらこのテラスは、昨夜夕食を取った間の隣に広がる部屋のものらしい。


『目が覚めたら、また会いに―――…』

ゆらゆらと硝子越しに揺れる灯りを見ながら、智純はぼんやりとキアランの言葉を思い出していた。






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