ラヴレス






(…また、会いに)

それは嬉しい許しだった。
「彼」には、渡したいものもあるし、話してみたいという好奇心もある。



(…母さん、やっと「天使」に会えたよ)

実はというと、アランと対面を果たしてから、智純の胸にあったわだかまりが小さくなっていた。
顔を見た安心感からか、抱き締められた温もりからか、母を、陽向を未だ慕うその姿からか。

昨日の今日とは言え、明らかにほだされていると自覚はしていたが、それでも良かった。

母の愛した人を心ない言葉で傷付けるより、丸め込まれたほうがよほど幸福だと、智純は考えるようになっていたのだ。


(…単純に、嬉しかったのかもしれない)

未だに、病に伏し、亡くなったと解っていながら、それでも未だに、母を心から慕ってくれているアランに、智純は自分自身が救われたような気になっている。


(母さんは、「天使」とどんな話をしたの?)

彼の体調は気になるが、この遠い異国の地で、まさか母について語れる相手を見つけられるなんて。

若くして他界してしまった母の、自分でも知らない表情を知れたら、それは幸せなことだった。





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