ラヴレス







ざくり。

先程より堅い草を踏みつけたらしい。
自分の体重によって、確かな体積が潰れたのを足裏で感じながら、智純はふとあることを思い出した。



『まだ君に、話していないことがある』

それは、アランが目覚める前にキアランが発した言葉だ。
神妙な面持ちで、胸につかえる何かを、話そうとしていた。


『まだ決定したわけではないから、伝えるかどうか、ずっと迷っていたんだが。…叔父上、僕、ジン以外は、まだ誰も知らない事なんだ』

そしてキアランが全てを語らないうちに、アランの覚醒を受けたソフィアが部屋に駆け込んできた。


(…ソフィも知らない話?)

あのソフィに甘いキアランの顔を見ているからこそ、不思議でならなかった。
だからこそ、キアランが言い渋った話の内容が、問題視されているのだと解る。

それは、智純が日本を経つ前に感じたキアランへの違和感と何か関係しているのか、「天使」も関わっているということは、もしかしたら「母」絡みの事なのか。


(…あとで、聞きに行こう)

智純は嫌な予感を感じつつも、使用人のひとりに呼ばれたため庭を後にした。






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