ラヴレス


*





朝食の時間に、智純が少々遅れて席に就く。

走ってきたのか、息切れをしながらもソフィアににこやかに挨拶をした。

既に席に就き、新聞を読んでいたキアランは視線だけを投げた。

英国君子の新年の日程を大々的に取り入れた新聞の見出しの隙間から、ちらりとその顔を見れば、どこか清々しく、なにか吹っ切れたような表情を貼り付けている。

「天使」という掴み所のなかった存在が、「アラン」という実態を形作ったことで、智純にも多少の変化があったのだろう。

その顔を見れば、その変化が良い方向へ向けてのことだと察することができる。


(なんとか、事なきを得たか……)

叔父であるアランと、彼が愛した女性の忘れ形見。

ふたりを引き合わせることに抵抗がないわけではなかった。
例え病床の叔父が望んだこととはいえ、キアランは出来れば会わせずに済ませたかったのだ。

余計な波紋を投げ掛けて、事が複雑になることだけは避けたい。

それは、アナベルト・シュナウザーの当主としての意思であり、アランの甥としての立場での願いだった。





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