ラヴレス
「…解った。職人を呼んでおく」
小さな助言を受けて、キアランは再び新聞へと視線を流した。
なんだか、居たたまれない空気が流れている。
穏やかだが、薄い皮一枚の向こう側で、息が詰まる想いをしているような。
ソフィアは智純の言葉に驚いたらしく、智純にお喋りを持ちかけた。
使用人達が運ぶ朝食を口にしながら、智純もそれに楽しそうに答えている。
キアランは誰にも聞かれないような溜め息を吐くと、新聞を畳みコーヒーを口に運んだ。
(…「例の話」を通したところで、智純が承諾するとは思えない)
けれどもし、智純が自分に有益であると判断すれば。
(そうなれば、僕は……)
ふわりとソフィアの香水がキアランの鼻を擽った。
控え目で柔らかな花の香りは、彼女の二十歳の誕生日にキアランがプレゼントしたものだ。
柔らかな金髪を求めて顔を上げたキアランは、しかし予想とは違う顔と目が合った。
なんの色も含まないが、無表情ではない智純の目がこちらを見ている。