ラヴレス







「いえ、実はここ数年、昔馴染みの職人が身体を壊していまして、現在は一般業者に頼んでいるんですよ」

驚くソフィアを他所に、控えていたジンがそう口を挟んだ。
敷地の管理は、ジンと執事長に預けているため、キアランも知らない話である。


「…ちらっと見てきただけだけど、比較的新しい修繕跡にひび割れが走ってる場所が多いんだ。古い建物だから、他の家より技術も要するだろうけど、やり方も丁寧って言うより、杜撰だったから」

折角の良い「家」なのに、勿体無い。
と、智純は言外に語っている。

業者や、至らない管理を責めているわけではなく、ただ単純に、勿体無い、と考えているのだろう。

赤の他人に自宅の心配をされるとは不思議な話だが、智純の「親方」とは一度面を通しているせいか、彼女の言い分をすんなりと受けることができた。

しかし智純はこのアナベルトにとって極秘の賓客である。
そんな真似をさせるわけにはいかない。

「…修繕は、腕のいい新しい職人を探すよ。君はそんなことにまで、気を回さなくていい」

そんな暇があるなら、叔父上の話し相手として時間を費やして欲しいのだ。





< 231 / 255 >

この作品をシェア

pagetop