ラヴレス
しかし智純はそれでも退かなかった。
強い眼光を光らせて、真っ直ぐにキアランを見つめる。
「でも、短期間とは言え、何もしないで置いてもらうわけにはいかないし」
それは、智純なりの義理返しであった。
母が愛した男性に、多少の無理があったとはいえ、引き合わせてくれたキアランに何かしら自分で出来る範囲で礼がしたかった――とはいえ、微細な助力にしかならないのだが。
「…、」
しかしキアランは、智純の想いとは違うところで目を見張るはめになった。
『短期間』。
智純のその何気ない言葉に、ぞ、と背筋が凍るような居たたまれなさを感じる。
彼女は、そうだ、まだ知らない。
後ろめたさに突き刺されながら、キアランは思わず、口調を荒くした。
「…そんな事を、客人にさせるわけにはいかない。我が宅の心配を他人の君にされる謂われはないし、第一、君がこの地を踏むことになった最大のきっかけを思えば、君がこのアナベルト・シュナウザーに気を遣う必要はないだろう」
騙し脅し、彼女の大切なものを引換に出した卑怯な条件を。
それだけでもキアランは智純に負い目があるというのに、「口にしていない」事実を含めれば―――。