ラヴレス
自分達では成しえなかった彼の回復と精神的安定を、知純はただ顔を合わせることで可能にした。
それはキアランにとって面白くないものだ。
けれど結果的に、アランの心労が軽減されたことを思えば、やはり嬉しかった。
医師によれば、今の状態が続けば、徐々に体力も回復し、手術を受けられるまでになるだろうとのこと。
アランの病は、愛する人を裏切り、そして失ってしまった悲しみに、深く蝕まれていたのだ。
そう考えると、知純の母親である「陽向」が、憎らしくも感じてしまう。
「…これは?」
アランが大事そうに、その痩せこけた指で守っているものに気づく気付く。
ボロボロになった紙のアルバム数冊が、真新しい紐でひとつに纏められている。
古ぼけた、いやに年季が入ったアルバムだ。
「客人のチフミさんが、今朝、届けてくれたんですよ」
答えたのはアランではなく、馴染みの医師ローレンだった。
小肥りの体型に、たっぷりの口髭が似合う優しい男である。
ローレンは、にこやかな笑みを浮かべアランを見た。た
「私は残念ながら眠っていたのだが、わざわざローレンに預けて行ってくれたんだ」
言葉を引き継ぐように、アランは穏やかに笑みを溢した。