ラヴレス
朝、アランに時間を割いて欲しいがために、知純の純朴な申し出を無下にして。
けれど知純は、誰に言われるでもなく、空いた時間を使い、アランに足を向けてくれていた。
あの大切であろう、古ぼけたアルバムを手にして。
(なんて様だ、キアラン。お前は今、周りが見えていない)
カツカツと絵画の描かれた大理石の廊下に靴音が響く。
その乱暴な歩調は、酷く愚鈍で早計で浅はかだ。
そろそろ仕事に向かわなければならない時間。
けれど、冷静にもなれない頭で仕事に集中出来るとは思えなかった。
「…あら、キアラン」
その時、庭側のテラスから声を掛けられた。
柔らかで穏やかな、春の風のような声。
思わず凝り固まった脳みそを解し、素直にそちらを振り向いてしまう。
「フィー…」
陽射しに透ける金髪を揺らすソフィアが、テラスで廊下側に立つキアランに手招きしていた。
口元に人差し指を当て、静かに来い、と呼んでいる。