ラヴレス
「…?」
不思議に思い、キアランが吹き抜けの一部屋を抜けてテラスに出ると。
「…大きな声を出しちゃやあよ。バレないようにしなきゃ」
ソフィアは悪戯っ子のようにその瞳を輝かせ、キアランの手を引いてテラスの死角へと誘い込んだ。
丁度巨大な柱に蔦が巻かれ、庭からは死角になる位置。
「一体、なにがあるんだ?」
まだ年若い従妹の嬉しそうな顔に、キアランもつい先程の自己嫌悪を忘れた。
彼女はいつだって幸せを分け与えてくれる、優しい女性なのだ。
「見て」
キアランの視線を促すように、ソフィアは蔦の間から小さな頭を出した。
キアランもそれに倣い、「なに」かにバレないように首を伸ばす。
まさかまた森から仔鹿でも迷い込んだのか―――と考えたキアランの視界に入り込んだもの。
「以前、壁職人が使っていた倉庫を探して揃えたらしいの」
いくつかのペンキと、種類の違う粉末の袋がいくつか、セメントがこびりついた汚いバケツに、太い刷毛と、様々な形の器具。
簡素な服に身を包んだ女性が、それらを周りに広げ、脚立に登っている。