ラヴレス







「あぁ、この時の彼女ったら、びしょ濡れで―――」

銀色の睫毛に縁取られる深海の瞳が、穏やかに細くなる。

「アラン・アナベルト・シュナウザー」という人物は、聰明で物腰柔らかく、穏やかな人だった。

イギリスに連れてこられて、今日で四日目。

特に何があるわけもなく、仕事でほとんど邸に居ないキアランとたまに顔を合わせて些細な口喧嘩をしたり、ソフィに英会話を教えてもらったりと、意外にも穏やかな日々が過ぎている。


「ちいちゃん」

なにより知純が嬉しかったのは、「彼」と笑顔で陽向の話を出来ることだった。

天涯孤独だった母を持ち、父親がいない知純には、陽向が死した後、彼女の話を共有できる相手がいなかった。
寺の老夫婦には、未だに陽向の死を引きずっていると心配させるのがいやで、あまり自分から話題にできずにいたのだ。

だからこそ、妙な経緯ではあったが、彼――アランと笑顔で大好きな母について話せることが、とても嬉しい。



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