ラヴレス
知純の屈託ない話にアランは瞳を細め、より一層の慈しみを深めるようにその彫りを深くする。
アランが話す自分の知らない陽向の話に、知純は瞳を輝かせ、彼女らしい話題がでれば、声を上げて笑った。
「陽向」というひとりの人間を失った隙間を、互いの思い出を持ち寄って埋めていくように、ふたりは他愛ないお喋りをした。
「あぁ、今日はとても気分がいいよ」
天井まで届く窓の外を眺め、そこから差し込む柔らかな光に透けるような温かさで、アランは微笑んだ。
それを眺めながら、やはり彼は天使だ、と知純は笑う。
医者のローレンが驚くほどの回復ぶりをここ数日で見せているアランの様子を、知純は確実にその身で感じ取っていた。
「陽向は、いつもちいちゃんのことばかり話していたんですよ」
―――ちいちゃん。
彼が目覚めているうちに初めて訪れた時、アランは知純を「知純さん」と完璧な発音で呼んだ。
けれどそれはどこか物悲しくて、知純は訳も解らず、物足りなく感じている自分に驚く。
『ちいちゃん…』
初めて、顔を合わせた時。
あの重い扉を開けて、駆けるように縋ったアランの声が、忘れられなかった。