ラヴレス
「アランさんがご飯を食べれるようになったら、母さんが得意だった料理を作りますね」
それは肉じゃがだったり、ハンバーグだったり、少ししょっぱい玉子焼きだったり、沢山のメニューの中に息づく、母の思い出だ。
アランには、それを食べて欲しかった。
衰弱しきった今は無理でも、いつか、彼が今よりもっと回復して、流動食ではなく、きちんとした「ごはん」を食べられるようになったら。
母が彼にできなかったこと。
彼が母にできなかったこと。
それらを多少でも満たしていけたら、きっとこの土地へ来れたことを、幸せに思う時がくる。
キアランにも、感謝する日がくる。
こうして陽向の写真を共に眺め、思い出に花を咲かせ、彼女の死を、柔らかく緩やかに悼むことができている時点で、知純はキアランに感謝しているのだが。
やり方はともかく、キアランが強引に出なければ、自分は首を縦に振らなかっただろう、と解っていたから。
あのままずっと、日本で家族と過ごしていたなら、母が愛した「天使」をお門違いに恨み続けていただろうから。