ラヴレス
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「チフミ!」
アランの部屋を後にして、自室に戻る道のりで透き通った声に呼び止められた。
「…フィー」
振り向けば、柔らかなピンクシフォンのワンピースに若葉色のカーディガンを羽織ったソフィアが小走りでこちらを目指している。
ぱたぱたと軽い足音が可愛い。
今にも跳ねる金髪が羽になって、天に還ってしまいそうだ。
知純に追いついたソフィアは、立ち止まって屈託ない笑顔を浮かべる。
それに同じように笑みを浮かべ、知純はソフィアの乱れた髪を整えてやった。
「ジンがね、今日から始めましょうって言ってたわ」
無邪気なソフィアに腕を組まれ、連れられるまま豪奢な廊下を進んでゆく。
「あぁ、…英会話ね」
知純は必要ないと突っぱねたのだが、ジンもキアランも何故か頑として譲らなかったのだ。
英語圏内で日本語しか喋れないとなると確かに致命的だが、知純は英語力が必要になるほど長く滞在するつもりはなかったし、何よりこの邸で関わりのある人間は日本語が話せる。
英国にやってきた一番の目的であるアランが、それこそキアランより日本語堪能なのだから、何を今更、と思わなくもなかった。