ラヴレス
* * *
智純の機嫌はすこぶる悪かった。
ガツガツガツ、とまな板に並べた鶏肉を切り分けていくが、その手にはいつもの倍以上、力が込められている。
(―――あのヤロウ…)
道路工事のバイト中、小学一年のみさとの担任から、みさとの具合が悪いとの電話をもらって、迎えに行ったまではよかったのだ。
しかし、学校に着いたら校門で待っている筈のみさとは行方不明で、見つけたと思ったら素性の知れないシルバーブロンドの外国人と一緒に居た。
しかもあの男は別れ際、智純へこうのたまったのだ。
『君のその独断と偏見は、心の綺麗なミサトの教育に良くない』
流暢な日本語でなにを言うかと思えば―――。
明らかに「変質者」というタイプではなかったが、その一言は智純を苛立たせるには充分だった。
「…シルバーブロンドの外国人」
―――なにより、生前の母が、美しい顔をした「シルバーブロンド」の男に恋をして、こっぴどく裏切られて散々泣いたのを知っていたから。