ラヴレス
キアランはなにかを考えこむように半眼になり、ゆったりといい味の出たカリモクから立ち上がった。
「解った。今から向かう」
主人の言葉とはいえ、秘書は目を丸くした。
思わず、壁に掛けられた時計を見る。
「…もう、六時ですが」
つい、余計なことと知りつつ進言してしまった。
「解っている。どうせ「チフミ」という名前の女性が居るかどうか確かめるだけだ。時間は掛からない」
キアランは大股でベッドルームへ向かい、ほんの数分でスーツに着替えてきてしまった。
秘書はまだ仕事中で背広のままだ。
このままではスムーズに事が運んでしまう。
しかし秘書も、今夜は譲れなかった。
キアランとは一回り歳が離れているとはいえ、自分も立派な男盛り。
「…しかし今夜は、クラブに出掛けられる手筈では」
キアランの叔父が滞在中、足繁く通っていたというクラブと同じ名前のクラブが、この街にもあるらしい。
東京、大阪、博多にもある同じ名のクラブも回ったが、「チフミ」の手がかりは掴めなかった。