ラヴレス
「こころの家」は、町の西南に位置する小さな小山の中腹にあった。
小山とは名ばかりで、今や開拓が進み、坂道のうねっている住宅集合地となっている。
昼間、行く道道を進んだ先で見つけた公園が、その住宅地の憩いの場だと気付いたのは、点滅する電灯に照らされた公園を車窓から見つけたからだ。
用意していたベンツへ乗り込み、目的地の「こころの家」まで、キアランは向かっていた。
しかし普段の穏和な彼らしくない。
秘書が何度話しかけたとて、気のない返事を返すだけ。
昼間、よほど気に食わないことがあったのだろうか――尋ねたところで不機嫌が増すだけなので、秘書は黙ったまま溜め息を吐きかけた。
「こちらです」
ホテルが手配してくれた運転手は、細い車道を安全運転で進んでいたベンツを停めた。
フィルターのかかった窓から外を見れば、数十段の階段の随分と先に、日本文化では代表的な、高く聳える建物の屋根が垣間見れた。
門前に設置された街頭に照らされ、庭の大きな楠が影となって母屋を被っている。