ラヴレス
「ぎやああああんっ」
くり貫れた四角い光。
そこから、再び悲鳴が上がった。
悲鳴は子供のものだ。
間違いなく、あの掘っ立て小屋のなかでなにかが起きている―――。
キアランと秘書が、まさか強盗か、と身構えた、その時だった。
「ふぎゃああああっ」
悲鳴が逆ドップラー効果で近くなったかと思えば、トタンのドアが外れた掘っ立て小屋からぴゅーっとなにか小さなものが飛び出してきた。
「…?」
キアランは目を見開く。
バタバタと喧しい足音のわりに小さなそれは、裸の男の子だった。
「…なんです、あれは」
秘書が隣でぽつりと漏らすが、キアランがそれに答えられるわけもない。
この真冬に、しかも夜に、裸の男の子は寒くないのか、わんわん泣き叫びながら庭を走り回っている。
まるで隠れる場所でも探しているかのように、キアラン達の視線の先にある楠の幹を、くるくる回っては立ち止まり、逆走してはまたくるくる回り出し……まるで森の小人か犬だ。
キアランが呆然とその光景を眺めていると、再び耳を裂くような大声が響いた。
「こらあああ!」
ただし悲鳴ではなく、怒声だった。