ラヴレス
ガタンッ。
と、乱暴に倒れたトタンを下駄で踏みつけて、半裸の女性が掘っ立て小屋から飛び出してきた。
髪には泡立てられたシャンプーがまとわりつき、身体にはタオルが巻かれたまま。
入浴を中途半端に済ましたような姿は、静かな庭にはあまりにも不釣り合いだった。
「お風呂は身体を洗って十数えて浸かる!誰が浴槽におしっこしろっつったか!」
ぎゃんぎゃんと有らん限りの大声で、楠に張り付いている憐れな裸の男の子に向かって叫んでいる。
どうやら、あの男の子が風呂場で粗相をしたらしい。
「何っ回、怒られたらあんたは解るの!」
淡く微かな光源に照らされ、こちらに気付くことなく激昂しているその人物は、キアランの知る「チィネエ」、その人であった―――。
「…なにをなさるのですか」
女性が誰か解った途端、咄嗟に後ろに立つ秘書の目を覆い、男の目からあられもない姿を曝す「チィネエ」を隠す。
「うるさい。見るな」
自らも背中を向け、目の前で繰り広げられていた原始的なビジョンの喧嘩から目を逸らした。